PFV賞 2025授賞式・両足院・京都

2021年より始まり今回で3度目となるPFV賞、今回の受賞者はなんと日本から京都で4代続く漆の精製会社、堤淺吉漆店さんが選ばれました!

この賞にご応募頂いた世界中の数ある家族経営企業の中から、日本の企業が選ばれたのは今回初めてで、創設当初からこの活動に関わってきた身として、また同じ日本人としてとても嬉しく誇りに思います。

毎回、世界中から様々な素晴らしい企業が応募してくださる為、PFV審査員たちにとって選考は本当に困難を要するようです。実は、堤さんは初年度の2021年より毎回応募してくださり、3度目となる今回の応募で見事に受賞者に輝きました。既に様々なメディアがこの授賞式について取り上げてくださっていますが、今回は主催者側目線でも、授賞式の様子をここにお伝えしたいと思います。

1909年京都に創業した堤淺吉漆店は、100年以上に渡り漆の樹液の精製を続けています。日本産漆生産量の大部分を精製しており、その一部は日光東照宮などの国宝修復にも使用されています。しかし、日本における漆の需要は過去40年間で90%も減少してるそうです。そういった危機的な状況に屈することなく、堤さんの会社は木のサーフボードや自転車に漆を施したり、京都の北部で漆の植樹活動を行うなど、常に革新的なアイデアと持続可能な活動を続けておられます。これらの素晴らしい活動がまさにPFV賞の理念と一致し、12のメンバーの印象に特に残り、今回の受賞へ繋がったのだと感じています。

授賞式前日 4月9日

堤ファミリーとPFVメンバーとの懇親会ディナー 

前回南仏で開催された時同様、今回も授章式の前日に前夜祭となるディナーを企画しました。

場所は京都・祇園にある由緒ある料亭、椿さんにて。

堤さんご家族からは、卓也さん、卓也さんの弟の智也さん、義理の弟の森住健吾さん、そしてお父様の4人が参加してくださいました。

PFVメンバーからはポルトガルのシミントンファミリー、スペインよりトーレスファミリーとヴェガ・シシリア、ドイツよりエゴンミュラー、フランスからはドルーアンファミリーのそれぞれのオーナーが参加。

そして海外からも世界的著名なジャーナリストが4名参加してくださいました。イギリスからは、あの、ジャンシス・ロビンソンさんと、ご主人でフードコンサルタントとしても著名なニック・ランダー氏。アメリカからは、World wine guys のJeff氏とMike氏という、ワインと食が好きな人間ならば誰もが興奮する、とても豪華な顔ぶれ。

堤さんとPFVメンバーとの交流は、この日までずっとオンラインのみのやり取りだったので、この日にようやく皆が揃い、実際に会うことができたことは、お互いにとって非常に感慨深いものとなりました。我らが愛するシャンパーニュ・ポル・ロジェを片手に、それぞれが自己紹介をし合いながら、穏やかな時間が流れていきました。

今回は京都の懐石料理ということもあって、ポル・ロジェの後は、全て京都地元の日本酒をセレクト。筍や山菜の天ぷらなど、春の京都の食材をふんだんに使った、どれも洗練された素晴らしい懐石料理を皆堪能していました。

授章式当日 4月10日 午前中

漆工房見学・朝のワークショップ

いよいよPFV賞授賞式の当日がやってきました。

この授賞式にはPFVメンバーと堤さんご家族に加えて、日本と海外からのジャーナリストもお呼びしていたので、総勢で40名ほどの皆様が遥々京都まで足を運んでいただきました。当日は海外メンバーと日本のジャーナリストと二つのグループに分けてご案内。

まずは午前9時より、堤さんの漆工房の見学と拭き漆体験からスタート。

卓也さん、朋哉さん、健吾さん3人による、漆のワークショップの始まりです。ウルシの木がどのように育ち、どのように精製されて漆になっていくのかを、デモンストレーションを加えながらの説明に皆、とても興味深く聞き入っていました。

その後、2階のアトリエにて拭き漆の体験。

拭き漆とは、木地を漆で拭き上げる仕上げ方法のことを言います。それぞれ用意されたお箸に、丸めた綿布で円を描くようにして木目に漆を摺り込み、その後綺麗な布で拭きあげる作業をしていきます。

そうすることで自然の木目が一層引き立ち、木地を長持ちさせることが出来るそうです。

皆、初めての作業にとても楽しみながら熱心に作業されていました。出来上がったお箸は、一度工房で乾燥させてから後日参加者の皆さんへお土産としてお送りしました。

授賞式セレモニー 建仁寺・両足院にて

その後、いよいよ授賞式に向けて次の会場へ皆で移動します。

場所は、京都・祇園にある由緒ある禅寺、建仁寺の両足院にて。このお寺の副住職の伊藤東陵さんと、卓也さんがご友人ということで、今回特別に場所をお借りすることができました。

桜の花もまさに満開を迎え、春の訪れを存分に感じる両足院の境内には、堤さんの漆を使った美しい漆の作品たちが品よく並べられていました。美しい漆の作品は、厳かなお寺の雰囲気と綺麗に調和して、まるで元々そこにあったかのように境内に自然に馴染んでいました。授賞式が始まるまでの間、数名の海外メンバーはお茶のお点前体験をされたり、他の皆さんはシャンパーニュ、ポル・ロジェを片手に、じっくりと漆の作品を鑑賞していました。

PFVケースと漆のコラボ

PFV は毎年12家族の特別なワインをセットにした、PFV オートクチュールケースを作成しています。今回、日本での授賞式に合わせて、漆アーティストとして多岐に渡りご活躍されている、服部一齋さんとコラボした、スペシャルなケースを作成して頂きました。

このPFVケースには高蒔絵や希少な厚貝による螺鈿を施し、非常に高度で特別な技法と素材を用いています。デザインにはワインの原料である葡萄をモチーフとし、漆を芸術に昇華させる漆精製会社・堤浅吉漆店の受賞とワインづくりの共通点を表現。伝統と技術の結晶として、受賞にふさわしいプレミアムワインケースとなっています。

皆が揃ったところで、PFV会長のCharles Symingtonによるお祝いのスピーチが始まりました。

以下、Charles の祝辞を抜粋致します。

堤家は、伝統を守るだけでなく、現代のニーズに応える革新を続けてきました。漆器の需要が減少する中、紫外線に強い漆の開発や、オーストラリアの職人と協働した漆塗りサーフボードの制作など、驚くべき創造性を発揮しています。さらに、自然に配慮した漆の採取や漆の植樹、若者への教育活動を通じて、持続可能なものづくりを実践しています。こうした姿勢は、PFV賞が重視する「伝統の継承」「職人技への献身」「革新性」「未来への責任」を体現するものとして高く評価されています。急速に変化する現代において、堤家は伝統と革新が共存し、互いを高め合えることを示してくださいました。世代を超えて技と想いを受け継ぐ姿勢が、真の卓越性を生み出すのです。

堤家の努力と情熱に、心より敬意を表します。そして今後のご活躍を楽しみにしております。PFVファミリーの一員としてお迎えできることを、私たちは誇りに思います。

それでは、堤ファミリーと全ての受賞者の皆様に、乾杯!

シャール・シミントンのスピーチが終わったところで、PFV賞のトロフィーが卓也さんへ捧げられ、記念撮影

その後、堤卓也さんからのスピーチを以下抜粋致します。

私たち堤淺吉漆店は、祖祖父・淺吉が創業して116年目を迎えました。

先代の口癖は「漆を一滴も無駄にするな」。

その言葉には、素材への敬意と、暮らしを支える漆への感謝の心が込められていました。

私にとって、漆は「ぬくもり」や「家族の記憶」と結びついた、特別な存在なのです。

私たちが歩んできたこの道のりは、1万年にわたり漆を繋いできた日本人の営み、そして創業者・淺吉から受け継がれてきた家族の時間と技術、そしてモノづくりを支えてくださった多くの方々と繋がりによって成り立っています。

しかし、そんな漆も、大量生産・大量消費の社会の中で年々姿を消しつつあります。
私が生まれた頃には年間500トンあった漆の消費量は、いまではわずか23トン。
この現実に向き合う中で、「私たち漆屋にできることなんてあるのだろうか?」と、絶望に近い気持ちを抱いた時期もありました。

けれど、山や海で過ごす時間が、私に自然への感謝を教えてくれました。そして、家族が受け継いできた漆の仕事が、人と自然をつなぐ営みそのものであると気づいたのです。 漆には、人と自然をつなぎ直す力がある。その長い人と自然の積み重ねが、今回このような形でPFV賞として評価されたことは、私たちにとって大きな喜びであり、未来への確かな希望となりました。今日この場にお越しくださった皆さまの存在もまた、私たちにとって心強い輪の一部です。このご縁を大切に、これからも皆さまとともに、「伝統を未来へつなぐ」活動を続けていけたら嬉しく思います。本日は、心よりありがとうございました。

授賞式とスピーチが終えたところで、PFVメンバー全員と堤さんご家族の集合写真撮影

堤さんの綺麗な地球を子供達に残していきたい、という自然に対する畏敬の念にはいつも多くの学ぶべき点があり、私たちも人間も自然の一部であり生かされている、という大切なことに改めて気付かされます。漆とワインという、一見すると普段は違う世界にいるように思えますが、PFVも日々、自然を相手にしたワインを作る家族です。自然を敬う気持ち、伝統を守りながら革新的なアイデアで次世代へ継承していく、持続可能な世の中を目指すという点など、改めて多くの共通点があるのだと感じました。

日本には、伝統工芸の技を継承しながら、日々心を込めて美しい作品を生み出している、情熱あふれる多くの職人さんたちがいらっしゃいます。ただ、世界的にも近年の気候変動の影響、次世代への後継者不足など、厳しい問題に直面している家族経営企業が多いのも事実です。そういう厳しい時代だからこそ、今後もこのPFV賞の活動が少しでも多くの家族経営企業の方々のサポートになっていけたら、と心から願っています。

次で4度目となるPFV賞2027の応募がいよいよ、6月17日から開始されました。

日本からも、堤さんご家族に続く、素晴らしい家族経営企業の方々のご応募をお待ちしております!

今後のご応募方法、詳細の質問に関してはお気軽にthePFVprize@pfv.orgまでご連絡ください。

応募アプリケーション用紙はこちらからダウンロードできます。

今後とも、どうぞ宜しくお願い致します。

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